習近平は、独断的且つ強硬な手段で党の要職人事を構築して来ました。政治局業務委員及び政治局委員の人事構成を見ると、確かに、習近平に近い人材の登用が目立っています。日本国際問題研究所によると、国内政治に於ける習近平の安定性は盤石に見えるが、経済成長の失速、安全保障や貿易に関するアメリカとの関係悪化、南シナ海での緊張の高まり、「一帯一路」イニシアティブに対する各国の警戒感などが足枷となって、水面下では熾烈な権力抗争が増していると報告しています。
具体的に言えば、江沢民派とされる汪洋や韓正等は、仮に習近平が胡錦濤や江沢民と対立することになった場合、彼らの振る舞いは権力闘争の趨勢を左右するとも分析しているのです。中でも、決定的ともされるのは、権力の集中が齎す弊害であり、経済の失速を受けて、習近平自身が全ての責任を負うべき立場にあるということです。
外交に於ける習近平のイニシアチブが達成されたのも、この種の権力抗争を勝ち抜いた結果であると言えますが、それは中国外交の成功を意味するものではありません。アメリカとの関係如何では、中国国家が破綻する可能性も捨てきれないのです。本稿では、削がれる習近平の権力について考察し、それが対米戦略の失策が原因であることに言及します。
トランプの手の内を読み間違えた習近平
NYタイムズによれば、米中経済戦争の余波により、習近平の権力基盤が崩壊していると報道されています。過度の権力集中は、外交的な失策一つで脆くも崩れ去るとも評しているのです。トランプの手の内を読み間違えた習近平は、巨額の米中貿易が存在する以上、トランプが強攻策に出るのを予測していなかったとも報じています。もとより、米中は水と油の関係に近いのです。方や自由主義と民主主義を標榜する米国と、一党独裁国家のシステムを放棄出来ない中国が、「文明の衝突」とも評されるべき対立関係に、今現在ある。NYタイムズの暴露による、「ウイグル弾圧の指示者が習近平である」との記事も、それを上書きしているのです。
習近平政権は、アメリカの対中政策が根本から変化したことに周章狼狽しています。
西欧社会は、経済的に発展すれば、中国は民主化し、普遍的な価値観を共有出来ると見做していました。然しながら、中国は、一党独裁システムを放棄せず、民衆を恣意的に弾圧し、あたかも、中世の悪夢を思わせる残虐非道を繰り返している。中国は、国際世論、なかんずくアメリカの対中政策が劇的に変化したのに気が付かなかったのです。
習近平の失策の行き着く先
「現在の状況を乗り切るためには、変化に適応する必要がある。しかし、習近平と王滬寧(共産党政治局常務委員)にはその能力がない。文革や毛沢東時代に戻ることを思想的武器にしている彼らには無理だ」こう語るのは、アメリカに亡命した作家の陳破空氏です。前近代的な政治システムを温存したまま、開放すべきを開放しない中国は、欺罔と自己矛盾に満ちた、悪性腫瘍のように世界には映っています。
習近平がイデオロギーの変革を実施して、自国を民主化する可能性はゼロに近いでしょう。
市民の過度のナショナリズムが抑制されているのは、一見すると、習近平政権の安定要因に見えますが、習近平が対米関係の安定維持に失敗し、更に今後、国内経済や対米政策を更に誤る愚を犯せば、習近平への指導力に対する不満が広がるでしょう。経済や外交が権力抗争の火種となり、習近平政権の安定性は大きく損なわれる筈です。
この記事のまとめ
或るジャーナリストは、これから先の中国はカオスになると見ています。国賓として招かれる予定の習近平ですが、その頃には、中国には大きな時代のうねりが待っていると予見しています。この稿の締め括りに、アクトン卿の言葉を載せて、閉じたいと思います。
「権力は腐敗する。絶対権力は絶対に腐敗する」
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