動き出した米空母打撃群
米国は、武漢コロナ以降、米空母打撃群の運用方法を大幅に変更しました。「日本国際問題研究所」の既刊資料によれば、空母の運用方法を、従来の「ローテーション方式」から「動的戦力運用」(Dynamic Force Employment:DFE)へと変化させ、従来の方式から改めて、軍事危機に即応できる能力を高めているとのことです。DEFによって、「神出鬼没」な戦力の運用・展開が可能となり、主に空母打撃群の効率的展開が可能となったのです。パンデミックの蔓延で、太平洋で運用可能な空母が皆無となり、その間隙を縫って中共は南シナ海の領有を宣言しましたが、艦船の補給と修理、乗務員のパンデミック終息を待って、再び、ロナルド・レーガンを旗艦とする、セオドアルーズベルト及びニミッツの、3つの米空母打撃軍が、現在、太平洋を遊弋中です。これは明らかに中国への牽制と思われます。アメリカ大艦隊は、既に就役しており、西太平洋・東太平洋の哨戒に当たるものと考えられます。恐らく中国にとっては、米海軍の回復が、想像以上に早いと感じられている筈です。F35艦載機を各60機ずつ擁した、米空母打撃群の脅威を、中国は指を咥えて眺めているしか方法が無い。最大・最強の米艦隊が中国の野心を掣肘するのです。軍事的な即応力を著しく高めたアメリカ側の報道官、米ナショナル・インタレスト・センターのハリ-・カジリニアス氏は、「これは明らかに、中共に対する警告である」と声明し、中国を威嚇しています。私は、既に、これは事実上の「宣戦布告」に近いと感じています。「眠れる獅子」を目覚めさせた中国は、米国を対手とする、長期的な戦略を欠いている。
習近平の権力基盤の脆弱性
一方で、中国の内情はどうか。2019年12月のNYタイムズによれば、米中経済戦争の余波により、習近平の権力基盤が崩壊していると報道されています。過度の権力集中は、外交的な失策一つで脆くも崩れ去るとも評しているのです。トランプの手の内を読み間違えた習近平は、巨額の米中貿易が存在する以上、トランプが強攻策に出るのを予測していなかったとも報じています。もとより、米中は水と油の関係に近いのです。片や自由主義と民主主義を標榜する米国と、一党独裁国家のシステムを放棄出来ない中国が、「文明の衝突」とも評されるべき対立関係に、今現在ある。NYタイムズの暴露による、「ウイグル弾圧の指示者が習近平である」との記事も、それを上書きしているのです。習近平政権は、アメリカの対中政策が根本から変化したことに周章狼狽しています。西欧社会は、経済的に発展すれば、中国は民主化し、普遍的な価値観を共有出来ると見做していました。然しながら、中国は、一党独裁システムを放棄せず、民衆を恣意的に弾圧し、あたかも、中世の悪夢を思わせる残虐非道を繰り返している。中国は、国際世論、なかんずくアメリカの対中政策が劇的に変化したのに気が付かなかったのです。
中共内部の派閥抗争
習近平は、独断的且つ強硬な手段で党の要職人事を構築して来ました。政治局業務委員及び政治局委員の人事構成を見ると、確かに、習近平に近い人材の登用が目立っています。「日本国際問題研究所」によると、国内政治に於ける習近平の安定性は盤石に見えるが、経済成長の失速、安全保障や貿易に関するアメリカとの関係悪化、南シナ海での緊張の高まり、「一帯一路」イニシアティブに対する各国の警戒感などが足枷となって、水面下では熾烈な権力抗争が増していると報告しています。具体的に言えば、江沢民派とされる汪洋や韓正等は、仮に習近平が胡錦濤や江沢民と対立することになった場合、彼らの振る舞いが権力闘争の趨勢を左右するとも分析しているのです。中でも、決定的ともされるのは、権力の集中が齎す弊害であり、経済の失速を受けて、習近平自身が全ての責任を負うべき立場にあるということです。外交に於ける習近平のイニシアチブが達成されたのも、この種の権力抗争を勝ち抜いた結果であると言えますが、それは中国外交の成功を意味するものではありません。アメリカとの関係如何では、中国国家が破綻する可能性も捨てきれないのです。
対米戦略の欠如
「現在の状況を乗り切るためには、変化に適応する必要がある。しかし、習近平と王滬寧(共産党政治局常務委員)にはその能力がない。文革や毛沢東時代に戻ることを思想的武器にしている彼らには無理だ」こう語るのは、アメリカに亡命した作家の陳破空氏です。前近代的な政治システムを温存したまま、開放すべきを開放しない中国は、欺罔と自己矛盾に満ちた、悪性腫瘍のように世界には映っています。然しながら、習近平がイデオロギーの変革を実施して、自国を民主化する可能性はゼロに近いでしょう。市民の過度のナショナリズムが抑制されているのは、一見すると、習近平政権の安定要因に見えますが、習近平が対米関係の安定維持に失敗し、更に今後、国内経済や対米政策を更に誤る愚を犯せば、習近平への指導力に対する不満が広がるでしょう。経済や外交が権力抗争の火種となり、習近平政権の安定性は大きく損なわれる筈です。香港弾圧や南シナ海領有宣言を初めとして、既に、習近平は外交上の大きな失策を犯している。動き出した米国大艦隊に、一体、習近平はどうやって対処するいうのか。
この記事のまとめ
既に米国は、3隻の空母及び艦船の一群を、太平洋に向けて就航させました。史上、最大の艦船を展開する米国は、既に、あらゆるオペレーションを想定している筈です。これほど早く、史上、例を見ない軍事的な示威を行使する歴史は、かつて存在しなかったでしょう。アメリカは自信に満ちている。このまま海戦が始まれば、間違いなく中国艦船は撃破される。他国の領土を「核心的利益」と称して、奪い去って来た中国には鉄槌が降る日が来る。つい先日、私はアメリカのASB(エア・シー・バトル)について言及したばかりです。事態の展開の早さに、私自身、驚いています。
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