日本政府は一貫して、尖閣諸島に領土問題は存在せず、日本の主権が絶対的であるとの認識を示してきました。然しながら東シナ海に野心を抱く中国は、尖閣諸島を実効支配せんが為に、連日のように武装艦艇を領域侵犯させています。世界で蔓延する、コロナ禍を好機と捉える中国は、尖閣海域への艦船の侵犯頻度を高め、あたかも、自国領だと公言して憚らないのです。ショッキングではありますが、恐らく尖閣は、数年の内に中国に簒奪されてしまう可能性が非常に高い。日米軍事同盟が、どの程度「尖閣危機」に対応出来るか、現状では不透明だと言ってよく、国の総力を賭けてまで、大規模な軍事衝突を米国が尖閣危機に際して果たすかどうかは、誰も知り得ないのです。今回の記事では、日本の採るべき方策を、アメリカのシンクタンクの提言に倣って詳述し、国際機関への提訴を視野に収めながら、考察して参ります。
領土問題は存在しないとの日本の立場
日本政府は「領土問題は存在しない」との立場に則って、尖閣諸島を領有してきました。歴史的に見ても、尖閣諸島が日本固有の領土であるのは間違いが無く、中国の主張が誤っているのは確かです。然しながら中国という国家は、歴史を紐解けば、他国を侵略してきた史実が明々白々です。日本が、庭先まで侵略者の侵入を許してしまう原因は多岐に渡りますが、主たる理由は、「領土問題は存在しない」といったテーゼを、日本側が急に変更する訳にはいかない為です。「日中の間に、主権の問題が存在することを認めてしまう」これが日本政府の堅持する立場ですが、一方で、尖閣問題を「棚上げ論」で黙殺してしまう与党幹事長の責任は非常に重い。私は、今後、尖閣への中国の実効支配が本格化すると見ています。北方四島や李承晩ラインによる竹島簒奪を思い返すと、「既成事実化」してからでは手遅れです。声高に「主権主義」をいくら唱えても、既得権は相手に掌握されたままです。この、日本の「原則論」こそ、尖閣に対する中国による侵犯を、世界世論にアピールする機会を逸した原因と見做すことも出来るのです。
アメリカ・シンクタンクの見方
以上の経緯には、当然、日本の政治家の怠慢も関わっています。キューバ危機を経験した米国は、尖閣問題を現実的に捉える見方が主流です。センシティブな自衛隊増強論や、改憲すれば事態が好転するといった、日本の保守派の思考は、考えが浅い。尖閣を奪取されてからでは遅い上に、一国を揺るがす大事変だと考える視点が足りていない。これがアメリカの主流の意見なのです。日本が改憲すれば、中国による東シナ海覇権の野望を挫くことが果たして出来るのか、疑問に思う向きが専門家の間から出ています。日米安保条約第五条に則って、有事の際、軍事的なオペレーションが発動しますが、アメリカが主体である当事国ではなく、日本自身が専守防衛に徹する必要がある。私は、自衛隊増強や改憲には強く賛同しますが、米国シンクタンクの言うように、国家総動員での防衛意識を国民全体が共有するのが望ましいと考えています。
国際問題研究所(CSIS)の提言
尖閣問題に関して、CSISは、日本に国際司法裁判所への提訴を勧めています。CSISによれば、日本側の国際司法裁判所への提訴に対し、中国は確実に拒絶する。何故なら中国は、海洋権益や領土問題に関しては、当事国との二者間で解決すべきとの選択を採ってきたからである。第三者の容喙を排し、特に、アメリカを初めとする国際世論の圧力を、極度に恐れてきたためでもある。領有権紛争に関して、中国はアメリカを排除し、国際的なプレゼンスに傷を負わないよう振る舞っている。以上は、ASEANによる中国の足枷にもなっている。フィリピンは国際司法機関に提訴したが、中国は頑なに、これを拒んだ。「超限戦」を展開する、中国共産党によるプロパガンダに対抗する為にも、提訴は有効だと考えることが出来る。CSISの提言は以上ですが、国際社会の関心を喚起すべき必要性が高いとの、結論です。私も、大筋では賛成ですが、竹島と尖閣とで、ダブルスタンダードを余儀なくされている現状では、提訴は難しいと思われます。
この記事のまとめ
尖閣防衛が破綻した場合を想定して、以上の論考を進めて参りましたが、重大な国土保全の話が、いつの間にか「友好親善」の話にすり替わる、永田町の奇々怪々な政治力学には、私は辟易しています。将来、必ず、軍事衝突が起きる。私は、そう考えていますが、その際、誰が危機管理をするのか、出来るのか、深い関心を抱いています。政界の一部には、国際司法に提訴するのは、尖閣が奪取されてからだとの意見もあるそうです。私は、これは政治の怠慢だと考えます。先の大戦は、日本人一人一人の戦いでした。尖閣防衛は、決して、米国や自衛隊に丸投げして良い話ではありません。一人一人が主体的に考え、問題意識を持つことで、国防意識への蒙を開くことが可能となるでしょう。
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