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昨今の朝鮮半島情勢を鑑みる際に押さえておきたい歴史的事実の一つに、北朝鮮は韓国を侵略した歴史があるということです。北朝鮮はかつて南侵し、韓国のソウルを陥落させた事実があります。朝鮮半島一帯に展開した北朝鮮軍は半島の隅まで韓国軍を追い詰め、韓国国家は壊滅寸前にまで追い詰められた過去があるのです。最初に銃爪を引いたのは北朝鮮側でした。カミングスの歴史的な修正主義に沿って1950年に勃発した朝鮮戦争を読み解くならば、「内戦」「米帝国主義と李承晩誘導による南侵」とも考えられます。事実、長らく朝鮮戦争はアメリカに最大の責任があるとされて来ました。元東京大学教授の和田春樹の「朝鮮戦争」にも、”南北の矛盾を解決するための必然的な過程”が朝鮮戦争だったと位置付けられています。事実はどうか?ソ連崩壊後の機密外交文書の開示によって、スターリンが支援し毛沢東が同意したために、金日成が主導して”南侵”した侵略戦争だったと分かります。大事なのは、”北朝鮮が韓国を侵略した過去がある”という点なのです。歴史を歪め、修正主義を助長し、長らく真実の当たらなかった事実を掘り起こしてみると、意外な事実に気付きます。現在のミサイル実験の意図や現実を見つめるためにも、私たちは歴史を振り返って見る必要があるでしょう。本稿では、北朝鮮の核開発にまつわる様々な事象を分析し、正しい歴史的視座に立って朝鮮半島情勢を見ていきたいと思います。
北朝鮮の核開発問題
1993年、北朝鮮の核開発疑惑が発覚しましたが、北朝鮮は弾道ミサイルの開発を金正日時代から継続しています。ミサイル開発は、世襲した金正恩に核開発が引き継がれています。日本海に向けて幾度も弾道ミサイルの発射を繰り返してきた事実があります。
繰り返される北朝鮮の実験は、究極的にはアメリカ本土を射程に収めるミサイル開発が目的です。
北朝鮮は軽水炉への転換を約束した原子炉も、プルトニウム抽出の為の目的(核開発)を変えず、且つまた国際的な協議でのテーブルに就こうとせず、国家総動員で核を開発してきました。核保有は金政権のセントラルドグマであり、米中韓露日が譲歩を引き出すのは不可能だと見られます。38度線で対峙する北朝鮮と米韓は休戦状態に過ぎず、朝韓は”戦時中”と言ってもいいのです。核開発は北朝鮮にとって、安全保障上の死活問題となっています。米韓合同軍事演習は北朝鮮には”軍事的な脅威”に映っているはずです。当初は人工衛星の発射に過ぎないと北朝鮮は強弁していましたが、最近では”威嚇的”に宣言するようになって来ました。
核開発を黙認したに等しい中国
国連での拒否権を背景に、断固とした制裁を北朝鮮に課そうとしない中国こそ、北朝鮮問題を深化させたとの指摘が依然強いです。北朝鮮の在外資産の凍結、経済制裁など、消極的なセオリーしか存在しない当事国の後手々も、北の挑発的態度を誘発しています。実は、中国は第二次大戦以来の”血の同盟”を締結していて、北朝鮮と一蓮托生なのです。現在でも食料や燃料の援助を北朝鮮に与える中国の存在は、北朝鮮問題を考える上で、重要な意味を持っています。
朝鮮半島を政治的軍事的な緩衝地帯と見做す中国は、現状維持が望ましいのが本音なのです。
日本政府も中国の北朝鮮への影響力に期待するばかりで、決定的な外交カードが切れないのが現状です。経済制裁の実効性が上がらず、北朝鮮が資金や物資の援助を背景に核開発が可能だったのは、中国が北朝鮮を庇う姿勢を崩さないためであったのです。結果として中国は北朝鮮の核開発を黙認したと云えます。
北朝鮮のミサイル開発の現状を知る上で、北朝鮮メディアが公表する映像を探してみました。
考えられる今後の半島情勢は中国が鍵
中国が石炭の輸入を差し止めてしまえば、北朝鮮は経済的に立ち行かなくなるのは明白です。
今後米中で北朝鮮を巡る問題で一定の合意が得られれば、軍事衝突が回避される可能性が非常に高いでしょう。
と言うのも、中国は北朝鮮が緩衝地帯でなくなれば、米国と直接に対峙することになるからです。そのため、米中の対話と半島問題での解決のリーダーシップを分掌することになるかと思われます。一方、北朝鮮が民主的な改革に臨めば、周辺国の安全保障上のリスクヘッジは減殺し、半島は安定する筈です。ですが先ず、北朝鮮の民主化は金正恩体制下では100%不可能でしょう。腹違いの兄を化学兵器で殺したり、服従しない者は容赦無く粛清したり、既に帝王幻想に酔っている金正恩にとって、”民主化”を受け入れることなど有り得ないことだと分かります。さらに”血統”重視の北朝鮮の思想から言って、恐怖政治があってもクーデターの可能性は存在しないでしょう。
最悪のシナリオは38度線をどちらかが破って、米朝で軍事衝突が懸念されていることです。有事のシナリオとして可能性が高いのは北朝鮮軍が38度線を突破することです。延辺島砲撃も北による比較的に近年の軍事的挑発であることを忘れてはなりません。現在の米軍の戦闘力や装備、なかんずく国力の彼我を鑑みれば、朝鮮半島でのプレゼンスが大いに増すのはアメリカだと考えることが可能です。
これは即ち、中国が米国の脅威に直接晒されることを意味し、そうした意味からも中国当局は北朝鮮に圧力をかけてでも非核化させて国家を存続させるべく尽力するとの期待の向きも大きいのです。事実、日本政府も、中国が北朝鮮をコントロールすべきであるとの立場に立っています。
北朝鮮は核兵器(弾道ミサイル)を使用するか否か
経済制裁の実効性が上がっていれば、北朝鮮の核開発は停止している筈です。昨今、北朝鮮がミサイル発射を続けているのは道理に合わないのです。テロ指定国家である北朝鮮は、経済制裁の影響もあって経済的に一部が破綻しかけています。その一方で、武器輸出によって核兵器開発の為の多額の資金を得ています。
対テロ包囲網を幾らかでも緩和しているのは中国の煮え切らない態度です。歴史的に見れば、事実上の金王朝を擁立したのは中国なのです。抗日武装戦線の首魁であった33歳の若さの金日成を擁立して武力支援したのは、他ならぬ、中国なのです。そして、1950年の朝鮮戦争を惹き起したのも中国です。つまり、現在の独裁体制の基礎を作らしめたのは中国であったのです。重要なことは、朝鮮半島は朝鮮戦争休戦協定によって”準戦時下”の状態が継続している点です。
筆者の考えでは、核開発は北による米韓日に対する牽制カード作りの一つに過ぎないと思われます。
アメリカ本土を射程に収める兵器開発が今すぐに開発可能だとは考えにくいからです。運悪く北が長距離射程ミサイルの開発に成功したにせよ、アメリカが黙認する筈がないと考えられます。正確に着弾可能なミサイル技術を持っておらず、ICBM(大陸間弾道ミサイル)のように大気圏外に射出されて、大気圏に再突入する高度なミサイル技術は未だ開発されていないと見ていいようです。ですが、予断を許さない状況はアメリカもよく承知しており、北は核弾頭を多弾化する技術も開発中なのです。
懸念されるべきは、核ミサイル以上に38度線の方だと考えるのが妥当だと思われます。ソウルは38度線から数十キロの地点にあり、北による軍事侵攻の最大の目標です。北朝鮮にとって、南進が最大の課題であり、”祖国統一”とは、韓国を滅ぼすことと同義です。その際、最大の障壁になるのがアメリカであり、韓国は帝国主義の蹂躙下にあると吹聴しているのが北朝鮮です。
2017年4月29日、国連制裁の報を追うようにして北朝鮮がミサイル発射に踏み切ったのは記憶に新しい筈です。アメリカは軍事的対抗措置も視野に入れた動きも見せていて、一方ではトランプは明言していないのが実情ですが、長期的に見れば、北のミサイル発射を、アメリカが国際社会に対する明白なる挑戦と受け止めているのは明白です。
無視できない中国の影響力
中国は外交を巧みに利用して、北朝鮮の制裁に対して悠揚な立場を取り続けているのですが、核を使わせないという”国際的な枠組み”の中に北朝鮮を引き入れられるかどうか重要です。曖昧な態度に終止しているが、最終的な外交イニシアティブを企図しているのが中国です。と言うのも、中国抜きでは北朝鮮自体が存続出来ないことは、中国自身がよく理解しているからなのです。
現在のところ中国は北朝鮮をミスリードはしていないし、放縦な北朝鮮の軌道を正そうとしています。
一方で北朝鮮は、中国に配慮せず、Subjective(主体的)な航路を思い描くようになって来ています。私が解せなかったのは、中国当局が北朝鮮の核開発を黙認してきた理由のほうだったのです。更に北朝鮮が核開発を推進すれば、在韓米軍には強靭な核抑止力が配備される筈だからです。THAAD(高高度防衛ミサイル)の配備が中国には愉快でない事実は周知のところですが、北朝鮮を暴走させて核化させ、THADDを配備されれば中国の軍事的プレゼンスは脅かされることになります。にも関わらず、中国が北朝鮮を屠ってしまわなかった理由が解せなかったのです。
この記事のまとめ
事態は1950年まで遡ります。中国の力を背景に南進した北朝鮮軍は、国連軍を中心とするアメリカ軍と全面戦争に至った経緯があります。当然、中国人民解放軍も朝鮮戦争に参加しています。
歴史的経緯を読み間違えてはならないのは、この点です。現在の北朝鮮民主主義共和国のイデオロギーの大元を作ったのはソビエト連邦でしたが、大韓民国を作ったのはアメリカ合衆国なのです。南北分断国家の成立は米ソ冷戦下での歴史的事情です。ですが、ソ連はアメリカとの衝突を避け、物資や弾薬の補給に終始しました。北側として実際に参戦したのは中国人民解放軍であったのです。推計では200万の市民の犠牲があった激しい戦いの末、戦線は膠着し、マッカーサーは解任されました。複雑怪奇を極める半島情勢には、未だに歴史的な刻印が遺っていて、大国の思惑が執拗に絡み合い、一触即発の火薬庫である点を明記しておきます。
昨今、文在寅政権が日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を、一方的に通告してきた意図は、様々な憶測を元に考察が加えられていますが、筆者にも文在寅大統領の意図は推し量れません。明瞭なのは、かつてのように、北朝鮮が南進する可能性が極めて高まっているということです。この点に関しては、次稿に譲ることとして、本稿の締め括りに、半島有事のリスクが高水準に跳ね上がっている点を指摘して、記事のまとめと致します。
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