スパイ防止法に関しては、1980年代から活発な議論が政府与党内で交わされて来ました。全14条からなる、「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」を正式名称とする、所謂スパイ防止法は議員立法として1985年に国会に提出されましたが、審議を打ち切られ、可決されませんでした。通称「スパイ防止法案」なるこの案件は、特に外交及び防衛に関する国家機密の漏洩を防止し、違反した者は最高で死刑もしくは無期懲役といった、重い刑罰が課されているのが特徴です。伊藤宗一郎ら、10名の発議(議員立法)として衆議院に送られましたが、結果的に廃案となっています。然しながら、厳然として、スパイが日本国内に存在し、工作や諜報、破壊活動等に関与している可能性がある。日本に於けるスパイ事件に言及するならば、先ず、「李春光事件」が挙げられます。これは中国大使館の一等書記官が、スパイを働いていた嫌疑が掛かった事件です。李春光は人民解放軍に於いて、情報参謀部の人間だったのです。
李春光事件の概要
李春光一等書記官は、中国人民解放軍の情報機関「中国人民解放軍総参謀部第二部」出身であり、日本の外事専門警察が、潜水艦のノイズ除去に関する機密漏洩への走査線に浮かび上がった、李光春を、立件出来なかった経緯があります(日本にはスパイ防止法が存在しないため、別件での立件である)。李は、虚偽の方法で外国人登録証を取得して、ウィーン条約で禁ずる行為(商業活動)に関与し、また、公正証書原本不実記載など、様々な手を使って、中国に帰国したのです。日本側で、李の工作に関わったとされる、鹿野道彦、筒井信隆は、民主党の野田佳彦内閣から要職を解かれ、一時期、国会で問題になった事実が存在しています。外交官特権によって、本国に帰国した李光春が、如何なる機密を掴んでいたかは定かではありませんが、防衛上の機密を盗むに留まらず、政界工作に及んでいた事実は、驚くべきことです。
中共の諜報活動
中共の諜報活動は以下に絞られます。先ず、政治、防衛関係、マスメディア、通信機器などです。勿論、日本に於ける反中組織も中共の調査内容に含まれています。特に狙い撃ちにされたのは、防衛関係者です。 2007年にはイージス艦システムの設計図が中共に漏れ、 2013年には 「防衛省情報本部情報漏洩疑惑 」を巡って無実を主張する、 防衛省情報本部の大貫修平3等陸佐が提訴を起こしています。 現在、分かっているだけでも、日本国内には5万人の中国共産党員が存在し、中共は、在外党員への「調査」と「報告義務」を負わせています。この種の報告は、対象が「国家安全部」である点に注意したいところです。詰まり、日本の情報は、残念ながら中共に筒抜けだと言ってもいいでしょう。国防動員法が発令されれば、日本に住む80万人の中国人が、国防の義務を負わされているのも事実です。2004年に尖閣諸島へ中国人活動家が上陸した事件では、沖縄の在日中国人が関与していた事実が明るみになっています。 2010年6月には「日籍華人聯誼会」が発足し、中共は、日本に在住する日本籍の中国人の、組織的な動員を可能にしました。
政治家の二重国籍問題
ここで問題になるのが、政治家の二重国籍問題です。国家安全保障など、重大な案件に関して、いずれの国の国益に立っているのか不明確だからです。Counter Intelligenceを高めても、政治家が機密を漏洩するなら意味がありません。情報漏洩は、法的にはどうなのか?Wikipediaによると、「日本にはイギリスの公職秘密法のような政治家からの情報漏洩を罰する法律は存在せず、機密情報を漏洩させた場合、一般職公務員であれば国家公務員法に触れるが、もし大臣・副大臣・顧問などの特別職公務員が漏洩させた場合には、刑事罰はない」とあります。詰まり、ザルの様なものなのです。中共が各国大使館や領事館の機能を高めているのは、こうしたロビー活動や産業スパイ支援など、多面的に情報収集と諜報活動を推進する一環だと見ていいでしょう。スパイ防止法は急務ですが、特別職公務員にも法の網を掛けないと、意味がありません。スパイ容疑で、法人拉致が横行する中国に対し、毅然とした態度で臨めないのは、日本側の、こうした法的不備が源因です。早急に改善すべきではないかと私は思います。
オーストラリアでの事例
外国に目を転じると、2018年に出版された、「 Silent Invasion: China's Influence in Australia」― Clive Hamilton によれば、CCP(中国共産党)による、オーストラリアへの政治工作が浮かび上がって来ます。CCPは代理人(実は中共の工作員)を通じて、オーストラリアの政界や企業を雁字搦めにしているのです。 中国系メディア、学術機関、ネットを通じた世論工作、政界工作は多岐に渡り、今なお、オーストラリアを苦しめています。それを裏書きするのが、 中国のスパイだった王立強が、香港と台湾、豪州で行っていた諜報活動を暴露し、オーストラリアに亡命して、 豪州保安情報機構に中国の驚くべきスパイ活動を公開した事件です。王立強はスパイではないとの見解がありますが、中国当局への何らかの関与があったと見ていいでしょう。
中国の手口
中国の政治工作条例を分析すると、中国は先ず、「世論戦」で挑んで来ます。つまり世論操作や自国の士気高揚、敵対国の政治的弱体化を狙って世論戦を展開してきます。次に、「心理戦」で挑んで来ます。欺罔や虚偽、デマや恫喝などによって、相手国を疲弊させるのです。最後に、「法律戦」によって、自国の軍事的活動を正当化するというものです。例えば、尖閣諸島での船舶衝突などは、偶然では無かったのです。有事に自国民を好き勝手に操ることの出来る「国防動員法」も、正に「法律戦」を体現していると言っていいでしょう。
この記事のまとめ
本稿は以前書いた原稿を元に加筆修正したものです。「超限戦」という言葉があります。軍隊に限らず、国家の資力や人員全てを総動員するのが中国の超限戦です。これにはスパイ活動も関与しています。当然、世界へのコロナ拡散も、中国の超限戦の重要な手法の一つです。超限戦には制約など無く、非倫理的な方法も辞さないというのが、正しい定義です。各国政府が、コロナ奇禍に遭遇し、対応に追われている間隙も、中国にとっては好機となるのです。既に、WHOの腐敗に見る通り、中国の卑劣な行動は図に当たったのです。敵国を弱体化させる為なら、非倫理的なことも辞さないというのが、中国の兵法なのです。既に、アメリカFBIは、中国によるサイバー攻撃への警鐘を鳴らしています。Unrestricted Warfareと訳される超限戦は、既に始まっているとみていいのです。矛を交えるだけが戦争ではないのです。私は、日本に於ける、スパイを用いた中共の政界工作は、既に、絶望的な次元に至っていると考えています。
参考文献―実は身近にいた中国共産党スパイ 拳骨拓史著
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